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ヘッセが人生の転機にユングの影響も受けて書いた「デミアン」

「デミアン」より個性化に関係している箇所の抜粋集

「デミアン」高橋健二訳の抜き書き集。

私は、自分の中からひとりで出てこようとしたところのものを生きてみようと欲したにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか。

『デミアン』新潮文庫 P6

個性化は、個人が意識的に何か、あるいはどこかを目指そうとする類のものではなく、「自分の中からひとりで出てこようと」するものに従う過程です。

われわれの見る事物は、われわれの内部にあるものと同一物だ。われわれが内部に持っているもの以外に現実はない。大多数の人々は、外部の物象を現実的と考え、内部の自己独特の世界をぜんぜん発言させないから、きわめて非現実的に生きている。それでも幸福ではありうる。しかし一度そうでない世界を知ったら、大多数の人々の道を進む気にはもうなれない。シンクレール、大多数の人々の道はらくで、ぼくたちの道は苦しい。──しかしぼくたちは進もう」

『デミアン』新潮文庫 P149

”The Road Less Traveled”(行く人があまりいない道、心理学者のスコット・ペックの本の題名。)ですが、進む価値のある道であることは疑いようもないと思います。

次は長い引用になるが、非常に参考になる箇所なので、ぜひ味わって読んでいただきたい。

ここで突然鋭い炎のように一つの悟りが私を焼いた。──各人にそれぞれ一つの役目が存在するが、だれにとっても、自分で選んだり書き改めたり任意に管理してよいような役目は存在しない、ということを悟ったのだった。新しい神々を欲するのは誤りだった。世界になんらかあるものを与えようと欲するのは完全に誤りだった。目ざめた人間にとっては、自分自身をさがし、自己の腹を固め、どこに達しようと意に介さず、自己の道をさぐって進む、という一事以外にぜんぜんなんらの義務も存しなかった。──そのことは私の心を深くゆり動かした。それが私にとってこの体験の結実だった。しばしば私は未来の幻想をもてあそび、詩人としてか予言者としてか画家としてか、あるいはなんらかのものとして、自分に定められているかもしれない役割を夢想したことがあったが、それらすべてはむなしかった。私は、詩作するために、説教するために、絵をかくために、存在しているのではなかった。私もほかの人もそのために存在してはいなかった。それらのことはすべて付随的に生ずるにすぎなかった。各人にとってのほんとの天職は、自分自身に達するというただ一事あるのみだった。詩人として、あるいは気ちがいとして終ろうと、予言者として、あるいは犯罪者として終ろうと──それは肝要事ではなかった。実際それは結局どうでもいいことだった。肝要なのは、任意な運命ではなくて、自己の運命を見いだし、それを完全にくじけずに生きぬくことだった。ほかのことはすべて中途半端であり、逃げる試みであり、大衆の理想への退却であり、順応であり、自己の内心に対する不安であった。新しい姿がおそろしくかつ神聖に私の前に浮かんで来た。それは百度も予感され、おそらくもういくども口に出されたものであろうが、体験されたのはいまが初めてだった。私は自然から投げ出されたものだった。不確実なものへ向かって、おそらくは新しいものへ向かって、おそらくは無へ向かって投げ出されたものだった。この一投を心の底から存分に働かせ、その意志を自己の内に感じ、それをまったく自分のものにするということ、それだけが私の天職だった。それだけが!

『デミアン』新潮文庫 P168-169

そしてしだいに私は、しるしを持っている人々の秘密に通じるようになった。
 しるしを持っている私たちが世間から奇妙だ、狂っている、危険だ、と思われたのも、もっともかもしれない。私たちは目ざめたもの、あるいは目ざめつつあるものだった。ほかの人々の努力や幸福探求が、その意見や理想や義務や生活や幸福を衆愚(しゅうぐ)のそれにますます密接に結びつけることを目ざしていたのに反し、私たちの努力はいっそう完全な覚醒を目ざしていた。彼らのあいだにも努力があり、力と偉大さはあった。しかし、私たちの解釈に従えば、われわれ、しるしのあるものが、新しいもの、孤立したもの、来たるべきものへの自然の意志を表していたのに反し、ほかのものたちは固執の意志の中に生きていた。彼らにとって人類は、あるできあがったもので、維持され保護されねばならないものだった。私たちにとっては人類は一つの遠い未来であり、私たちは皆それを目ざして途上にあるのであって、その姿はだれにも知られず、そのおきてはどこにも書いてなかった。

『デミアン』新潮文庫 P190

「しるしを持っている人」は作品中では「カインとアベル」のカインを指す。神話においては殺人の加害者で一般的に悪とみなされているが、グノーシス主義ではカインを崇拝する。

ユング心理学でいうと「しるしを持っている人」は「個性化に向かって、(無意識にとどまらず)意識化しようとする人」ということになるかと思う。

「デミアン」のあらすじ(他サイト)

検索するといくらでもあるが、かつて「かなりのメンヘラだった」というしーたさんの記事が力作で、よくまとめられている。
https://wantedtobeloved.com/2019/10/05/demian/#toc4

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