人はこれほどまでしても真実から目をそむけたいものだということを示す格好の場面を古いSF映画ゼイリブで見つけた。
2年以上前に「赤か青か:映画マトリックスの究極の選択」で、人は真実から目を背けて適当に生きていく”お気楽な監獄”の方を好むものだと書いたのと同じ興味深いテーマだ。
調べているうちに、最近の山手線車両広告がこの映画を参考にして作られていたことや、スロベニアの哲学者ジジェクがこの映画を分析していたことを知った。コロナと気功に関する自分の近況と心境も書いた。(全4ページ、4,500文字)
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映画「ゼイリブ」(1988)
映画の概要はさておいて、該当シーンの理解に必要な背景だけを説明したい。
主人公は”真実”が見えるサングラスを手に入れた。これをかけると、そこら中にエイリアンたちがうようよしているのが見える。サングラスを外すと見慣れたいつもの世界で、エイリアンたちも人間としてふつうに生活している。
このエイリアンたちはメディアを牛耳って人間を操っている。サングラスをかけると世界はモノクロになり、ありふれた広告看板からは、「従え(Obey)」、「服従しろ(submit)」、「消費しろ(consume)」、「考えるな(No thought)」、「8時間働いて8時間眠って8時間遊べ」、「テレビを観ろ(watch TV)」「眠っとけ(sleep)」、「起きるな(stay asleep)」、「買え(buy)」など人々を洗脳するためのプロパガンダが透けて見える。(以下の画像。)
※このシーンは、Netflixの山手線広告(2019年)と酷似していることで話題になった。(後ページで紹介)
他にも「産めよ増やせよ」という看板があったり、ドル紙幣には「これがお前の神だ。(This is your god.)」という言葉が透けて見える。
原題は”They live”だが、実際には”They live, we sleep”(彼らは生きており、我々は眠っている)という意味が込められている。
映画「マトリックス」で人間がカプセルの中で仮想現実を生きていたように、人間は仮眠状態にされてエイリアンに支配されているという設定である。
これを知った主人公は、大変だ、人々に知らせなくてはと必死になり友達にこのサングラスをかけるように言うのだが、友達はそれを拒む。今回紹介したいシーンがここ。
「かけろ」「いやだ」の押し問答をしながら殴り合うふたりは、お互いに血を流しながらボコボコになり、そのうちどちらかが死ぬんじゃないかというところまでやりあう。90分の映画で延々と6分間も続くこのシーンは、映画史上に残る伝説の喧嘩場面としても有名になっている。
視聴者は、サングラスをかけるぐらい簡単なことなのにここまで拒まなくてもいいのではと思えるのだが、これがまさに「真実なんて知りたくない。知ってたまるか!」という人間心理のメタファーとなっている。
ここまで暴力的にサングラスをかけることを拒むなんて一見ばかげているように思えるかもしれないが、男は薄々、自分が嘘の世界を生きていることを知っており、真実を明らかにされて今まで自分が信じてきた幻想が壊れることをこれほどまでにに恐れているのだ。
スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek)、スロベニアの哲学者
この記事の最後のページに、映画のダイジェストを背景にジジェクが出てきて解説している動画を載せているので興味ある方はご覧ください。ジジェクは日本でも知られている現代の哲学者です。
状況を把握していただいたところで、この長すぎる殴り合い場面を観ていただこう。日本語字幕はついていないが、「おまえとおまえの家族を救いたくて言ってるんだ。だからこのサングラスをかけてくれ。これをかけるか、かけないならそこのゴミを食わせるぞ。」など以外はあまりセリフがない。
主人公を演じたロディ・パイパー (Roddy Piper) は元プロレスラーというからハマり役!
こういう格闘シーンは私が一番嫌いなタイプです。
こんなにきれいに正々堂々と殴り合いになる喧嘩なんてあり得ないのであって、何発かがあたればそれ以上打たれるのは
人間嫌ですから、それ以後はただの必死のつかみ合いになってしまうというのが私の中の常識で、あの殴り合いはしらけるのです。
それにあの大男たちの素手のパンチがまともにあたればただではすみません、顔面は骨折、皮膚は裂け、歯は折れ、こぶしは壊れます。
だいたい早々に脳震盪が発生します。
こんなにパンチの応酬が続くのはだめです。
そんな常識的なことを言ったら身も蓋もないじゃないですか! でも、たしかに「それだけ」のシーンには違いないのでわざわざ見なくてもいいかもしれませんね。笑
ジョン・カーペンター監督作「ゼイリブ」(1988年、アメリカ)日本語版の予告編。
ミヒャエル・エンデの「モモ」の現代版ですね。エイリアンを「灰色の男」たち置き換えると分かりやすいですね。
(Souji KitayamaさんのYoutubeコメント)
※制作から30年以上経った2020年8月、「ゼイリブ」の4Kレストア版のUltra HD Blu-rayも発売されている。”無駄に高音質・高画質”らしいがジョン・カーペンター監督のファンも多いようだ。