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6.トリックスター、まとめに代えて
トリックスターとは、その自由奔放な行為ですべての価値をひっくり返す神話的いたずら者、いわば文化ヒーローとしての道化である。
「トリックスター」(晶文全書1974年、カバーのそで部分より)
創造者であると同時に破壊者、善であるとともに開くであるという両義性をそなえて、トリックスターはまさに未分化状態にある人間の意識を象徴する。そして、既成の世界観のなかで両端に引き裂かれた価値の仲介者としての役割をになう。
トリックスターのかもしだす痛快な笑い、風刺、ユーモア、アイロニーは、多次元的な現実を同時に行き、それらの間を自由に往還して世界の隠れた貌を顕在化させることによって、よりダイナミックな宇宙論的次元を切り拓く、すぐれた精神の技術である。
われわれは今日の文化を考えるうえで、秩序にとらわれない自由な精神と思考の飛翔を可能にする、この道化的機智を無視して通り過ぎることはできないであろう。
トリックスターは創造者であって破壊者、贈与者であって反対者、他をだまし、自分がだまされる人物である。彼は意識的には何も欲していない。抑えつけることのできぬ衝動からのように、彼はつねにやむなく振舞っている。彼は善も悪も知らないが、両方に対して責任はある。
ポール・ラディン「トリックスター、予備的ノート」より
■参考:「トリックスター」(ラディン・ケレーニイ・ユング著、晶文全書1974)
