「嫌われる勇気」がベストセラーになって久しいが、その前に「怒る勇気」が足りないクライエントさんも多い。そんな人たちにぜひ紹介したいグリム童話がある。(1,600文字)
ユング心理学では、神話やおとぎ話を、文化や時代を超えて共有される集合的無意識の投影として捉える。
グリム童話に、「『テーブルよ、ごはんの用意』と金貨をだすロバと『こん棒、袋からでろ』」※という、とりわけ長い題名の話がある。
※ 別の訳では「おぜんやご飯のしたくと金貨を生む騾馬と棍棒袋から出ろ」
独語原題:Tischlein deck dich, Esel streck dich und Knüppel aus dem Sack
英:The Wishing-Table, the Gold-Ass, and the Cudgel in the Sack
題名は、魔法の宝みっつを並べたものである。最初のふたつは、食べ物を出してくれるテーブルと、金貨を出してくれるロバという、おとぎ話でよくありがちなものだが、みっつめの宝として、懲らしめたい相手をぼこぼこにぶん殴ってくれるこん棒という、ちょっと意表をつく過激なアイテムが登場する。
(下のグリム童話の挿絵参照。)
食べ物とお金が大事であることは誰でも知っているが、考えてみれば、怒る力や闘う力の重要性は世の中で過小評価されている。むしろ我慢や寛容の美徳の方がより高く評価されがちだろう。いつも怒りっぽかったり、常に喧嘩腰な態度に問題があるのは言うまでもないが、自分や自分の大切なものを守るために、きちんと怒りを表明したり、時には正面から闘ったりすることも必要だということを、この話はあらためて思い出させてくれる。
「テーブルよ、ごはんの用意」と金貨をだすロバと「こん棒、袋からでろ」は、こんな話
貧しい仕立屋には三人の息子がいたが、嘘つきのヤギのせいで、全員、父親に追い出されて修行の旅に出る。
長男
長男は指物師のもとで修業し、「テーブルよ、ごはんの用意」と唱えると、たちまち豪華な料理が並ぶ魔法のテーブルを手に入れる。帰路の宿屋で亭主にそれを見せたところ、寝ている間に偽物にすり替えられる。そうとも知らず家に戻った長男は、父親に得意げにテーブルについて語り、ごちそうが振る舞われると聞いて集まった親戚一同を失望させて父親に恥をかかせる。
二男
次男は粉屋のもとで修行し、呪文「ブリックレー・ブリット!(Bricklebrit!)」を唱えると金貨を生む魔法のロバを手に入れるが、帰り道に、兄と同じ宿屋で、やはりロバを亭主にすり替えられてしまう。家に戻って父親に、一生、お金に困ることはないと伝え、みんなを金持ちにしてやると親戚を集めるが再び一同を落胆させる。
三男
末弟はろくろ細工師のもとで、魔法の袋を手に入れる。この袋に向かって「こん棒、袋からでろ」と命じると、中からこん棒が飛び出し、狙いの相手を徹底的に殴ってくれる。帰り道に同じ宿屋に着いた三男は、兄たちの魔法の宝が盗まれたことを知り、こん棒を呼び出して宿屋の亭主を懲らしめ、魔法のテーブルと魔法のロバを取り戻し、これらを携えて凱旋帰宅する。めでたしめでたし。
つまらない一般的解釈
この話は、一般的には、悪者が懲らしめられる教訓めいた話と捉えられることも多い。しかし、グリム童話の初版では、三男がこん棒を試すために、何の罪もない人間や犬がこん棒で殴られる場面があったという。道徳的によくないと判断されたためか、途中からの版ではその場面が削除されているらしい。(参考:ウィキペディア)
つまり、もともとこん棒には、悪者だから懲らしめるという意図はなかったということになる。善悪の判断などお構いなしに、持ち主がやっつけたい相手に襲い掛かるというところがポイントの宝なのである。
とーなん怒りの表明が苦手なみなさん、参考にしてください!
「テーブルよ、ごはんの用意」と金貨をだすロバと「こん棒、袋からでろ」が読めるサイト



このグリム童話を読んでみたい方は青空文庫にもありますが、このサイトでは、挿絵つきで読めます。








