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イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin 1809 – 1882)といえば、進化論や「種の起源」だが、彼のライフワークがミミズの研究で、晩年に書かれた最後の著作もミミズについてだったと教えてもらった。
調べてみたら、植物の育つ土壌を太古の昔から肥沃な状態に保ち続けてくれているのがミミズであるというだけでなく、ミミズは意外にもとても興味深い生き物だった。ミミズに対する思い込みや先入観を捨てて観察を続けたダーウィンの素朴な好奇心や、研究者としての姿勢にも大いに学ぶところがあった。
ミミズに対してだけでなく、いろんな人やものごとに対する思い込みや先入観があり、ついつい自分のその色眼鏡を通して世界を見てしまいがちだということを反省しました。
ミミズの貢献
ミミズは1日に自分の体重の半分から同量の土をせっせと食べ、そこに含まれる有機物や微生物、小動物を消化吸収した上で糞として排泄する。そんなミミズの土壌形成に果たす役割は古くから知られていたが、それを最初に学術的に研究したのがダーウィンで、ダーウィンによると、地球上の植物が生えている土はミミズの体を何度も通ってきたという。
地球の土が、大昔から何度もミミズの体を通ってきたなんて、想像しただけでわくわくします。
ダーウィンは著書の中で、フランスの国有林で、落ち葉と無数のミミズの糞塊からできているふかふかの土の層が何エーカーにもわたって見られる広大な地域を、ミミズの見事な耕作例として挙げている。
ウチではミミズコンポストをやっていて、かわいいシマミミズさんたちに働いてもらっています。
ミミズの心理学
私は土を入れたポットを書斎に置き、ミミズを飼うことになったことでミミズに興味をもち、ミミズはどこまで意識的に行動しているのか、どれほどの知力を発揮するのかを知りたくなった。ミミズのように体制が下等で感覚器も貧弱な動物について、そのような観点からの観察が行われた例は、私の知る限りほとんどない。
ダーウィン「ミミズによる腐食土の形成」より
ダーウィンの観察によると、ミミズには知力があり、ある程度”意識的に”行動している。
たとえばミミズは、自分が掘った穴の入口を落ち葉などでふさぐ習性があるのだが、ダーウィンは、ミミズが環境に合わせて葉っぱの種類を変えたり、時には紙でその穴をふさぐことを観察した。つまり、感覚器官も脳と呼べるような臓器もないミミズが明らかに、環境に合わせて行動を調整していたのだった。
ミミズは何かに熱中すると、ふだんなら気にかけるものを無視したりする。このような注意力は、ある種の心の存在を示すものである。ミミズはふだんは臆病で、時にはすごく興奮しやすくなることもある。
ダーウィン前掲書より
ミミズは両性具有
ミミズは雌雄同体でオスメスの区別がありません。
ミミズ大学のサイトより
すべてのミミズがオスにもメスにもなり交尾をします。
またミミズは双子以上で生まれてくることが当たり前で、1つの卵から2匹以上が孵化します。平均は約4匹ですが、多い場合では6匹生まれてくる場合も確認されています。
雌雄同体でオスにもメスにもなれる完全体だというのは、ユング心理学の観点からも面白いですし、肥沃な大地を作ってくれるミミズ自身が多産だというのも素晴らしいですね。
※ミミズの交尾の撮影に成功した人の動画(1分45秒)を見つけた。何が起きているのかはよくわからなかったが、関心がある方はどうぞ。
ミミズは氷河時代も生き延びたすごい生き物
地球上に人間が登場したのは約1400万年前。ミミズが地球上に登場したのは、化石から計算されたところによると、ヒトの100倍以上にあたる約4.6億年前と推測されています。ミミズは氷河期を超えて現在まで生き残る始祖動物の一種なのです。
ミミズ大学のサイトより抜粋
ダーウィンの研究者としての態度
ミミズが人類にどれほど大きな貢献を成してきたかというダーウィンの論文は多くの反論や批判を受けたが、批判する研究者たちの主張は、「ミミズにそんな大仕事ができるはずがない」という思い込みによるものだったという。ダーウィンは、観察に基づかない思い込みによる批判は、自分にとってはまったく耳を傾けるに値しないしどうでもよいのだが、往々にして学者たちにはこのような態度があり、それが科学の進歩を遅らせてきたのは残念だと言っている。
ミミズの貢献だけでなく、生態についても、「ミミズが感覚器を欠いているからといって、ミミズに知能がないとはかぎらない」という視点から、思い込みを捨てて観察を続けたダーウィンの姿勢に大いに学ぶところがありました。
ミミズ神社
長野県にはミミズをご神体としている神社があるらしい。名前は「蚯蚓神社(きゅういんじんじゃ)」。
ミミズの漢字はこんなに難しかったんですね。「体を引いて通ったあとが丘のようになる」からだそうです。
神社の写真は、以下の参考サイトでご覧ください。
【参考】
●「ミミズ大学」の該当ページ
●長野県魅力発信ブログ「じょうしょう不思議発見」
その他の参考文献
●細田直哉「ダーウィンのミミズ研究とアフォーダンス」
●このコラムのタイトルは、出版社の本の紹介ページの「ミミズはすごい、でも、ダーウィンはもっとすごい」をもじったもの。