(2,400文字)
なぜわたしがこの画家について並々ならぬ関心を持っているかは、ヒルマ・アフクリントのスワンシリーズを見ていただくだけでも一目瞭然だと思う。
1914年から1915年、アフクリントが53歳ごろのときに描かれたスワンシリーズでは、対立物の融合のプロセスが進んでいく様子がリズミカルに表現され、具象画から抽象画へと変容したあと、最後にまた具象画で結ばれている。まるでドラマのような一連の絵は、ユングの「個性化」を想起させるイメージでもある。
全24枚の油絵を最初にまとめて掲載したあと、参考資料を訳した解説を加えた。
個人の心の中にある葛藤(Aを選ぶとBが選べないとか、AでもないがBでもない、AもあるしBもあるなど)が折り合いをつけていく過程としてイメージしながら、順番に目で追ってみてください。
続いて、個別に画像が入手できたものだけ順番に並べる。
The Swan, No. 1
スワンは、錬金術においては対立物の融合を表す象徴である。
卑金属を金などの貴金属に変えるものとして知られる賢者の石のような、新しい何かを生み出すのに、対立物の融合は不可欠である。アフクリントの描く黒と白の対比には、光と影、男性性と女性性、生と死などのあらゆる対立物のイメージが内包されている。
キャンバスが水平線ではっきりとふたつに分けられているモチーフは、このあとも何度も繰り返されながら、統一に向かっていく。
(文末の参考文献より拙訳。)
The Swan, No. 7
この絵については、美術評論家による詳しい解説動画(スウェーデン語)がある。
●この絵は、24枚のプロセスの中でもとくにダイナミックな進歩が見られるポイント。
●かなり抽象画化されていて、具象がわずかしか残っていない。
●発展・進歩の途中であることを示すため、あえて、完成されていない、当時、珍しかった手法が使われている。(絵の具を塗り残した部分がある。)
●アフクリントは、青色を女性性、黄色を男性性のシンボルカラーだとし、赤色は現実的な愛を表すとしている。
●男性性と女性性は、この絵においてまったく平等なバランスを保つ。
●この一枚の作品の中にも、左→上→右→下と進む成長過程が表されており、それは、時計周りでらせん状に進む。
●真ん中にはハート型がある。
というようなことが、この動画内でスウェーデン語で説明されています。スウェーデン語がわからなくても、絵の細部を拡大して見せてくれていますので、興味ある方はご覧ください。(2分50秒)
The Swan, No. 8
The Swan, No. 9
The Swan, No. 10
The Swan, No. 12
The Swan, No. 16
The Swan, No. 17
The Swan, No. 18
The Swan, No. 21
The Swan, No. 23
The Swan, No. 24
中心に向かって白鳥と黒鳥が向き合うイメージは、抽象画の中で、繰り返されるフォームや鏡像となりながら、やがてひとつになる。分断されたふたつの世界はまた現実と非現実をも表している。
(文末の参考文献より拙訳。)
スワンシリーズ、展示風景
スウェーデンのマルメ現代美術館で展示されたとき(2020/04/04 – 2021/04/11)の様子。
ひとつの絵のサイズは正方形のもので190センチ四方(60 1/4 x 60 1/4インチ)とかなり大きい。
本文参考サイト
●ビルバオ・グッゲンハイム美術館(スペイン)
https://www.guggenheim.org/audio/track/group-ix-suw-the-swan-no-1-1915-by-hilma-af-klint