Contents
Contents
内面への方向転換:人生をかけた戦い
ルロワール「天使とヤコブの闘い」
かつてユングは、私的書簡の中で自身の抑うつについてこう述べた。
暗闇がその濃さを増すなら、わたしはその中心と底を見据えてやろう。そして、苦しみの真っ只中で、光が見えてくるまで決して休むまい。やがて転換が起きるだろう。そのときわたしは自らに対する怒りに燃え、その怒りの炎で自分の鉛を溶かすのだ。すべてを放棄し、抑うつによって暴れてしまわぬようひっそりと最小限の生活を営むことになるだろう。わたしは、彼がわたしの腰をへしおるまで、暗闇の天使と取っ組み合いをするつもりだ。
上の引用でユングは、抑うつと、がっぷりよつになって取り組む覚悟のほどを宣言するために、自分を旧約聖書のヤコブに見立てて「暗闇の天使がわたしの腰をへしおるまで」と言っています。
その箇所が出てくる旧約聖書の「創世記」32章の「天使とヤコブの闘い」の場面は、この記事に挿入されている19世紀のフランスの画家、アレクサンドル・ルイ・ルロワール(Alexandre Louis Leloir)の作品以外にも、多くの芸術家によって多数、描かれています。
がっぷりよつと書きましたが、「天使とヤコブの闘い」は、相撲のルーツであるとも言われているそうです。
—以下、「創世記」32章より抜粋 —
そのとき、何者かが夜明けまでヤコブと格闘した。 ところが、その人はヤコブに勝てないとみて、ヤコブの腿の関節を打ったので、格闘をしているうちに腿の関節がはずれた。 「もう去らせてくれ。夜が明けてしまうから」とその人は言ったが、ヤコブは答えた。「いいえ、祝福してくださるまでは離しません。」「お前の名は何というのか」とその人が尋ね、「ヤコブです」と答えると、 その人は言った。「お前の名はもうヤコブではなく、これからはイスラエルと呼ばれる。お前は神と人と闘って勝ったからだ。」「どうか、あなたのお名前を教えてください」とヤコブが尋ねると、「どうして、わたしの名を尋ねるのか」と言って、ヤコブをその場で祝福した。
内面への方向転換は、不安や抑うつなどの心の状態と共に始まる。
不安や抑うつの核心に迫る
不安と抑うつの構造を見てみよう。
抑うつは、生命力を奪う。
● 生命力は深い部分に吸い込まれ、活力が奪われる。暗闇に入って行かねばならずエネルギーは失われる。
↓
● なくなったエネルギーが、どこに行ってしまったか探す。たとえば過去には持っていたのにいつのまにか失くしてしまった自分らしさとか、自分で拒否してきたところにエネルギーが溜め込まれているかもしれない。
↓
● そこに注意を向けてみる。ただ眺めるだけでもよい。
↓
● 最終的には、自分の活力にまたつながり直せる。
不安は生命力を分散させ、恐れや心配などの無益なものとして撒き散らす。
● あなたをとりまく諸々の恐れや心配には、ひとつの中心点がある。お金の心配、仕事や人間関係の問題はその中心点ではない。ひとつひとつの心配や恐怖はすべて表面的なものにすぎない。
↓
● 恐れや不安の中核を探してみる。そこにはたとえば自分への疑いや無価値観があるかもしれない。
不安と抑うつの核心に入って中と外をひっくり返す
一見、なくなってしまったかのように感じられるエネルギーは、未消化のまま脇に置いたり抑圧してきた恐れや怒りや悲しみ、そのほかの感情などの中に溜め込まれている。わたしたちは、抑うつや不安の根元を見るためにそこに入っていかなければいけない。そして、それらの抑圧してきた感情の真ん中に自分を見つけることができたら、ユングが抑うつ的になっている友人に宛てた書簡で勧めたように、中と外をひっくりかえすのだ。
不安と抑うつからの救済と癒し
ゴッホ「月が昇る夜の風景」
わたしがこの記事で伝えたかったことは、精神力動的な見方である。わたしたちの心的エネルギーが外に向かうとき、外的な生が耕され外的な生に活力が与えられる。心的エネルギーが内に向かえば、内的な生が耕され内的な生に活力が与えられる。
外的・内的、どちらの世界もわたしたちのエネルギーと配慮を必要としている。わたしたちがどちらかに偏りすぎてそれぞれの生きる権利を奪うと、わたしたちはその代償に苦しむことになる。
もし抑うつがあなたが今まで楽しかったことから生命力を奪ってしまったなら、自分の内界に入っていってその生命力が閉じ込められた場所を見つけよう。そしてそこに注意を向けて労わり、あなたの生に活力を取り戻そう。
もし不安があなたの生命力を恐れと心配で満たしてしまったなら、そのエネルギーをあなたの内界に集めてみよう。そしてあなたの苦悩の本質が見えてくるまで、じっとそこに留まっていよう。ここでもそれまで未解決だったことに関心を向けてどうにかしようとすることで、あなたは自分の生を自分の手でコントロールする感覚を取り戻すだろう。
抽象的な話になってしまいますが、イメージでとらえてみてください。
(とーなん拙訳。英語の原文はこちら。)
本記事の著者Jesamine Mello
本記事の著者ジェサミンは、2021年5月現在、スイスチューリヒのISAP(国際分析心理研究所)に籍を置くユング派分析家資格候補生(ユング派分析家のたまご)。
■ジェサミンのウェブサイト(英語):https://counselinginzurich.com/