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好きになりたいけどなれない親や家族、好きじゃなくても仕方ない by 松井二郎氏

自分の家族、とくに親のことが苦手だと意識したり口にすることには罪悪感が伴うため抵抗を感じる人が多い中、松井二郎氏が、家族への過去の否定的な思いをさらりと書いていた(2013)のが新鮮だった。

(前略)

私は、家族を好きでないのだ。
好きになりたいのだが、それがとても難しい。
         
幼いころ、勝手に家族みんなの機嫌をとろうとして、父、母、兄の気持ちを先読みしてはごきげんとりをしていた私が悪いのであるが、私にとって家の中は、安らげる場所ではなく、ホテルのボーイのようにサービスしなければならない労働の場所であり、幼い私は、すっかりクタクタになっていた。

父はいつも不機嫌そうであった。
前ぶれなく怒りだすことが多く、怒りだした父の顔は鬼のように恐ろしく、家族でなごやかに食卓を囲んでいるときでも、私は、いつ父が怒りだすかとビクビクしていた。
そして、この父がなんとか怒りださないように努めた。
「ぼくが、いい子でいれば、お父さんの機嫌はよくなるかもしれない」
そんなはずはないのであるが、幼い私は、そう思い込んだ。
この父に絶対服従を誓い、どんな理不尽な怒りにも耐えた。
ヘラヘラと笑いさえした。

母は、この父のためにいつも泣きべそをかいていた。
記憶するかぎり、父と母のあいだで、お互いを褒めあう言葉が交わされたことはない。
一方的に父が母をなじるのが常であった。
幼い私には気がつかなかったが、母は、病気なのか、どうかしたのか、ずいぶん低い年齢のところで心の成長が止まっていた。
父は、結婚後にそのことに気づき、話がまったく合わないことにイライラしていたようである。
ために、ことあるごとになじるのであるが、それがまた母の成長を止めてしまうという悪循環になっていた。

母の逃げ場は、私であった。
「ねえ、じろくん、」
じろくんとは私のことである。
「お母さんね、いつもお父さんにいじめられて、ほんとは離婚したいの。でも、じろくんがいるから、がまんしてるの。
じろくん、もしお母さんが離婚したら、お母さんとお父さん、どっちについてくる?」
月に一度は、きいてくるのである。
「……お母さん」と私は答えた。
怖い父よりも、この優しい母が好きであった。
この母のためにも、私はいい子でいようと思った。

そして、兄である。
この険悪なムードが漂う家は(幼いときは、そう気づかなかったが)、兄も不機嫌にさせた。
その兄のイライラは、弟である私に向けられた。
兄に、私は毎日のように泣かされた。
はじめは仲良く遊んでいるのだが、いつのまにかケンカになっていて、そうなると当然、兄のほうが強く、手を出されたら私は泣いておさめるしかないのである。
「おい、ばかじろ」
と、私は呼ばれるようになっていた。
ばか+二郎で、ばかじろである。
ほかにも、あほじろ、こけじろなどの変形パターンがあった。
そう呼ばれて、私は、ヘラヘラと笑って返事をした。
そして何でも言うことをきいた。
私が、いい子にしていれば、家族を守ることができるのだ。
幼い私は、そう信じ込み、徹頭徹尾、いい子に努めた。
家の中で、自分を完全に殺していた。

あの家で何が起きていたか自覚した今、父にも母にも兄にも、会いたくない。私が、こんな状態でありながら家を出て暮らしているのは、この家族といっしょに暮らすのがイヤだということもあったのだ。

松井氏は難病に指定されているクローン病のため、当時、ほぼ寝たきり状態だった。

クローン病の原因は、化学物質である。
けれども、化学物質をどれだけ摂取しても、難病にならない人もいる。
いや、そんな人がほとんどだ。
ではクローン病の引き金をひいたのは何か。
強烈なストレス、であった。
医師から、家族との葛藤をやめなければクローン病は治らないと告げられているのだ。

(中略)

私は家族がニガテであるが、家族の方はというと、なんとも思っていないらしい。
私が一方的に、勝手に葛藤しているのだ。

松井 二郎「まぐまぐ!1日2食の健康革命」vol.396  2013/10/ 1より一部抜粋

いい子にして懸命に道化も演じた幼少期、いつも不機嫌で怒りっぽい父親、本当は離婚したいけど子供のためにしないのだと言う母親、年上のきょうだいによる、一見たわいなくても受ける側には堪えるいじめ・・・ここに書かれていることは、仕事を通して聞くことの多い、辛かった子供時代の典型的なエピソードとも言える。本人はずっと葛藤を抱えてきたのに、家族の方はなんとも思っていないというのもよくありがちだ。

重い内容を、誇張することも感情的になることもなくこのように淡々と表現できるのは、松井氏が家族に対する複雑な思いをある程度消化しているからだろう。

メルマガで公開されていたこの文章は、ふだんのメルマガの主旨とはまったく違う内容だったために、これだけ抜き出して紹介していいものかと迷い、ご本人に問い合わせて了承を得ていたのに、気づくと丸6年も経ってしまっていた。

松井氏は、この内容に共感する多くの人たちに「実は私も家族が好きじゃない」と言う勇気を与えてくれると思う。

松井二郎氏のメルマガはKindle版で書籍化されている。(「クローン病中ひざくりげ」)(全11巻)

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