山根はるみ氏は、著書「やさしくわかるユング心理学」(日本実業出版社)の中で、自分が精神分析を受ける前に感じた疑問を以下のように書いています。
開口一番、私は宣言します。「私には、これといった問題はありません。楽天家だし、夫もいるし、子供もいる。お金に困っているわけでもない。それに夢もあまり信じられません。こういう私にも、何か効果はあるんでしょうか?」
それに対して、日本人の分析家資格候補生(分析家の資格を取るために、スイスのユング研究所に留学していた人。)は、ちょっとむっとして、それからこう答えたそうです。
「夢の分析をやってますとね、自分はこういう人間だと実感できるんです。それを感じられると、毛穴のひとつひとつ、皮膚の一片一片から力が湧いてくるんですよ。」
「毛穴のひとつひとつ、皮膚の一片一片から力が湧いてくる」というのは、上手い表現だと思います。
しかし、この日本人留学生は、決して山根氏に分析を受けることを勧めたわけではなく、「フロイトが好きなら、フロイトの研究所に行ったらどうですか。」と言ったのだそうです。
心細い思いをしていた私は、やさしい言葉を期待していました。ところが、何やらわけのわからないことをいわれたうえ、励ましてもくれません。しかしこの時、私は夢分析をしようと決めたのです。
「何やらわけのわからないことを言われたのに、やってみようと思った」という気持ちはわかるような気がします。わたし自身、精神分析や夢分析を始めてすぐ、「なんだかよくわからないけれど、“何か”ありそう。なんだかわからないけど、なんとなくおもしろそう。」と直感的に感じられたのを覚えています。