デンマーク人が制作した、日本の孤独問題をテーマにしたドキュメンタリー映画(2025)で、40代男女が紹介されていた。外国人の視点で捉えられた日本を知ることは、いつも新鮮で参考になるので、内容をまとめてスウェーデン人の感想と合わせて紹介する。昨今の日本で使われている「つながり」と「望まない孤独」という言葉についても調べた。(5,300文字)
とーなん番組を観なくてもわかるように、内容を詳しくまとめてみました。
原題「Dear Tomorrow」(2025年)
スウェーデンとノルウェーも協賛して制作された、国際映画祭で上映され高評価を得た作品である。
2026年2月にスウェーデンの国営放送局SVTで放映されたスウェーデン語吹き替え版を視聴。
原題「Dear Tomorrow」(2025年)は、「Ensam i Tokyo(東京でひとり)」と改題されている。
以下、スウェーデン語部分は、AI翻訳を参考にとーなんが校正した。





この男性が、主人公のマサトさん(以下、敬称略)です。
東京は世界で最も人口密度の高い大都市の一つである。それでも多くの人々が深刻な孤独に苛まれ、生きる気力すら失っている。ShokoとMasatoはそのうちの二人である。
ドキュメンタリーは、電車で通勤途中のマサトの映像(上に掲載した画像)から始まる。
初めは日本のラジオ放送からのようで、「日本のみならず孤独は世界的な問題となっていますが、特に日本のおじさんは世界で最も孤独だと言われています。」と日本語で聞こえた後、フランスのラジオのパーソナリティーの声の切り替わる。フランス語で「グローバル化やインターネットの発達で、人々はこれまでにないつながりを持てるようになった一方、孤独問題が増加しているのは皮肉なことだ」と続く。
次にナレーションが英語のニュース調に変わり、「メンタルヘルス業界の調査では、日本人の40%が孤独を感じ、その数字は40歳以下では50%に上る。報告書によると、孤独は喫煙と同じくらい健康に有害だ。」と解説される。
45歳のビジネストレーダー、マサト
マサトのこれまでの人生
マサトは45歳のビジネストレーダー。大きな観葉植物に囲まれた広々した住まいで、独身貴族的な生活をしているように見えるが、 「毎日、毎日、ああ、今日も目が覚めてしまったと、それが僕の1日の始まりで、いつになったら幸せになれるのかなと」思いながら出勤する。
ずっと一人暮らしで話し相手がいない。きょうだいはひとりいるが、別の家庭で育ち、交流はない。
母も、育ててくれた祖父母も早くに他界し、指針がないまま手探りで一生懸命生きてきた。
現在、職場でもスケープゴートになって除け者にされ、追い詰められていて苦しい状況。
自分以外のよるべがほしい、そんな思いでいっぱい。
小さい時から思っていた、幸せで賑やかな家庭を持ちたいということを、もっと若いときから真剣に取り組んでいたら、きっと今はひとりじゃなかったのではと自分を責める。
気晴らしは野球観戦やペット
マサトの趣味は野球観戦のようで、ひとりで観戦に行っていた。


マサトはカブトムシを飼っていたが、もう少し存在感のある生き物を求めて、最初は魚を買いに行った。


右の金髪の店員の説明では、これらの魚は、空間を認識する能力がなく、狭いところで生活できるので、スペースを取らず、一人暮らしにも飼いやすいという。マサトは、ちょっとぐらい愛想がほしいということで、人間を認識できるのかと質問したが、店員は、断言しないながらもできないという含みをもたせた感じで、ベタほどにはなつかないながら、手にのせるとぴょんぴょん飛んでかわいいと言っていた。



ベタという魚はなつくんですね。最近は、一匹の魚がこんな小さな水槽に入って売られているのも知りませんでした。


マサトは、「ごはんだよー」と魚に餌をやり、カブトムシにも話しかけていた。


後日、マサトが訪れたのは、こんな雰囲気のフクロウショップだった。


店員:「なんでフクロウを飼いたいと思ったんですか?」
マサト:「魚とかも飼ってるんですけど、存在感がなくて・・・。ウチに帰ってきたら待っててくれる、みたいな存在がほしくて。犬みたいにベタベタしてほしいわけでもなくて、お互いにいい距離感でいっしょにいられるものがいると気持ちも落ち着くかなって。」
禅寺を訪れる
マサトは横浜の禅寺も訪れて、僧侶に話を聞いてもらった。


マサト:「精神的な体力がもう残っていなくて」
僧侶:「死にたいっていう気持ちですか?」
マサト:「そうですね。」
僧侶は、「仏教は、基本的に人は誰しも根本的に孤独であると説いている。」と返していた。
43歳のショップ店員、ショウコ
ショウコの孤独
ショップ店員43歳のショウコは、ワンルームマンション住まい。


辛い幼年期で、過去数年間、家族とは連絡を取っていない。
話し相手がいない。気分がいい時もあるが、落ち込むとネガティブな考えが払拭できなくなり、孤独を感じる。
心療内科に通う
ショウコは心療内科に通っており、精神科医に向かって、こんなことを訴えていた。
10年、20年、若かったら、もうちょっと未来があるかもしれないと思えたかもしれないんですけど。
ショウコ
時々、もういいやっていう感情が出てくるんです。
なんのために働いてお金を稼いでいるのかって。家庭を持ってふつうに生きている人がいっぱいいて、なんでわたしはそういうことがひとつもなし得ないんだろうとか。それがゴールとか目標ではないんですけど、大多数の人がやれていることができないから、自分が欠陥人間みたいに思っちゃうことがずっとあったんで。
ひとりで「ただいま」と言って帰ってくるときや、ひとりで「行ってきます」と出かけるときとか、なんか寂しいなっていうのはあって。クリスマスとかお正月とか誕生日とか、いつもひとりで・・・別にいいんですけど・・・ひとりでそういうのをやってるときとかやっぱりちょっと・・・。
高校時代の親友も一人暮らしだった
大人になって連絡が途絶えていた高校時代の親友も、独身のままで一人暮らしをしていることを知ったショウコは、その友人を訪ね、お互いに共通の状況や心境に共感し合う。友人は猫を飼っていた。


マサトもショウコも無料チャット相談窓口を利用
ドキュメンタリー内では、日本のNPO法人の無料チャット相談窓口の活動が紹介されていて、マサトもショウコもその相談窓口の利用者だった。
ChatGPTなどのAIが、十分対話相手になってくれるだけでなく、カウンセラー役としても満足のいくアドバイスをもらえる時代になったが、この相談窓口では、人間が手打ちでチャットを返していた。


ただ、マサトもショウコも、チャットでの会話が始まって、大事なことを伝えた次の瞬間に、
現在、すべてのチャット相談員が取り込み中なので、しばらくお待ちください。(とーなん訳)
と返され、そのままずっと放置されるという状態になっていた。時間は日本の深夜、中途半端なところで放置されるより、最初から待たされた方がマシなのでは?と思ったが、ひとりの相談員が何人も並行して同時に相手をしないといけないので、仕方がないのだろうか。ドキュメンタリーが作成されて1年近く経っているので、状況が変わっている可能性もあるが、この時点では、「毎日何千人もの人々が書き込んでくるので、すべての人をサポートするのは難しい。」ということだった。
ドキュメンタリーのラストシーン
ドキュメンタリーは、マサトもショウコも、笑顔のシーンで締められていた。
マサトの方は、その後、職場を解雇され安い家賃の住まいへの引越しを余儀なくされるのだが、新しい環境の中で、フクロウを外で散歩させていると、近所の人たちが集まってきて交流が行われていた。


ショウコの方は、趣味で音楽をやっていたが、再交信を始めた旧友の見守る中、ライブハウスで自分のつくった歌の弾き語りをしていた。


ドキュメンタリーを見て感じた文化差
ドキュメンタリーを見て、いろいろ思うところはあったが、マサトもショウコも、「まだ40代」なのに、「もう40代」と絶望しているのには文化差を感じた。
スウェーデンでは50代で勉強を始める人も多いと別のコラムで書いたが、人生のパートナー探しに関しては60代、70代の人たちも、びっくりするほど積極的である。


ドキュメンタリーの内容には関係ない感想になるが、東京のフクロウショップと魚ショップの店員は、昔はいなかったタイプで新鮮だった。



たぶんどちらもオーナーで、フクロウや魚をこよなく愛するユニークな人たちなのでは?




スウェーデン人たちの感想
この番組を放送したSVTのFaceBookに投稿していた人たちの反応を抜粋する。
スウェーデンには「ひとりでもだいじょうぶ」という社会的規範がありますが、みんな、自分ひとりで全部やり遂げて、人に頼ろうとしない。そんな自立の幻想が、無用な苦しみを生んでいる気もしました。
心に響くドキュメンタリーでした!
なかなか興味深い作品です。スウェーデンにもある問題です。
しかし、主人公のひとりがフクロウショップを訪れるという非常に奇妙な展開がありました。(以下に続く)
(続き)
フクロウカフェだけでも十分問題なのに、ここではペットとしてフクロウを飼うのです。
様々な種類のフクロウが、白く無菌的な部屋で縛られて、客の前に並べられていました。


孤独な男性がフクロウを買い、小さなアパートでフクロウに餌をやりながら話しかける姿を見て、視聴者が喜ぶことを意図していたのでしょうか。
私の場合には、それまでの男性への共感が、一瞬でフクロウへの同情に変わりました。可哀そうなフクロウが、人間の孤独感を軽減するために、一生の監禁生活を強いられるのです。
フクロウがペットとして許されてもいいのでしょうか?
ドキュメンタリー製作者は、野生動物の取引を全く問題のないものと考えているのでしょうか。
放映したSVTも、人間の孤独問題がどれほど深刻でも、このような長期的な動物虐待を是認することに貢献したいのか考え直すべきです。
Masatoがその後、どうしているのかが気になります。
「つながり」と「望まない孤独」
仕事中にクライエントさんから、日本では「つながり」という言葉が流行していると聞いていたが、このドキュメンタリーのキーワードも「つながり」と「望まない孤独」だった。



日本で「つながり」という言葉が流行になった時期やきっかけを教えてください。



承知しました。
● SNS普及(2010年代): Twitter/Facebookで「つながり」がキーワード化。糸井重里の『インターネット的』(2001年)が先駆けだが、一般ブームは2015年以降。
● 孤独相対化ブーム(2020年): 内閣府「孤独・孤立」対策で「人とのつながり」を強調。コロナ禍で加速し、企業CM・自治体施策で定着。
2026年現在は定着語ですが、2018-2020年が転換点です。



孤独相対化ブームとは?



孤独相対化とは、孤独感を「絶対的なもの」ではなく「他人や過去の自分との比較」によって生じる相対的な感情と捉える考え方です。



「望まない孤独」とは?
「望まない孤独」は、大空幸星氏が提唱した日本語表現で、英語のloneliness(望まない苦痛を伴う孤独)を指します。
●意味と対比
・望まない孤独(loneliness): 話したいのに話せない、頼りたいのに頼れない社会的つながりの欠如。精神的苦痛を伴う。・望む孤独(solitude): 自分で選んだ静かな一人時間。一人でカラオケや焼肉を楽しむポジティブな状態。
●日本語特有の問題
日本語では両者を「孤独」で一括りするため区別しにくく、大空氏が「望まない」を付けて政策提言。2021年内閣府「孤独・孤立対策」で公式採用されました。
スウェーデンの個人主義は社会への高い信頼+福祉国家のセーフティネットに支えられ、日本のような「望まない孤独」にはなりにくいと言われているが、実際にこちらで生活していると、たしかにその印象は受ける。
SVT(スウェーデン国営公共放送局)
SVT(Sveriges Television)は、スウェーデンの国営公共放送局で、主に視聴者からの受信料(現在は公的税金として個人所得に基づく公共サービス税)で運営されている。
イギリスのBBCや日本のNHKに似ており、商業広告を一切受け入れず、独立性を保ちながら中立的で公益的な番組を提供するのが特徴。
1956年に放送開始し、スウェーデン最大のテレビネットワークとして約36%の視聴シェアを占めている。
SVT Playとは
SVT PlayはSVTの公式ストリーミングプラットフォーム(アプリ・ウェブ)で、多くのドキュメンタリーや番組を無料で視聴可能。
スウェーデン国外からも一部コンテンツが視聴できる場合があるが、VPNが必要な制限コンテンツも多い。



海外規制により、スウェーデン以外にお住まいの方は視聴が難しいと思いますが、こちらにお住まいの方のために番組のリンクです。
