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三島由紀夫「豊饒の海」、題名は月に由来する

「豊饒の海」という題名を、三島由紀夫は月から採っている。そこから脱線して、味わいのある昔の漢字の話。(780文字)

「豊饒の海」は「浜松中納言物語」を典拠とした夢と転生の物語であり、因みにその題名は、月の海の一つのラテン名なる Mare Foecundiatis の邦訳である。

三島由紀夫「豊饒の海」第1巻「春の雪」後注より

「豊饒の海」を勧めてくれた人の名前が「月」に関係しているので、調べてみました。

Mare Foecundiatis

Mare Fecunditatis(英語名 Sea of Fertility)は、月の東半球に位置する月の海の一つであり、月の表側にある。(上の写真の赤丸部分。)

三島 (1969)は、作品完成前に有人ロケットの月面着陸が行われることに触れて、〈人類が月の荒涼たる実状に目ざめる時は、この小説の荒涼たる結末に接する時よりも早いにちがひない〉と述べ、題名は、〈月のカラカラな嘘の海を暗示した題で、強ひていへば、宇宙的虚無感と豊かな海のイメーヂとをダブらせたやうなもの〉で、禅語の〈時は海なり〉の意味もあると説明している。

ウィキペディア「豊饒の海」の項目より

ところでSea of Fertilityは、近年では「豊かの海」と訳されるそうで、これだと「豊饒の海」のドラマチックな響きがなくなってしまう。

「豊饒の海」を「豊かの海」と訳すようになったのは、ジョウの漢字(饒)が難しすぎるからだろうか。「饒舌(じょうぜつ)」のジョウとしては残っているが、読めても書ける人は少ない漢字検定1級漢字。

ちなみに「豊饒の海」のハードカバーの古本では、わたしには読めない漢字がたくさん出てくるが、”水が連なる”「漣(さざなみ)」(漢検準1級)とか、”骨と豊か”で「體(体)」(漢検1級)など味わい深く、使わなくなってしまったのがもったいない気がする。


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