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ガブリエラの歌

歌も歌詞も素晴らしい映画の挿入歌を見つけたのでご紹介します。

私の人生は 今こそ私のもの
この世に生きるのはつかの間だけど
希望にすがってここまで歩んできた
私に欠けていたもの そして得たもの
でも それが自分で選んだ道
言葉を超えたものを信じ続けて
天国は見つからなかったけど
ほんの少しだけ それを垣間見た
生きている喜びを心から感じたい
私に残されたこれからの日々に
自分の思うままに生きていこう
生きている喜びを心から感じたい
私は それに価すると誇れる人間だから
自分を見失ったことはない
今まで それは胸の奥で眠ってた
チャンスに恵まれない人生だったけど
生きたいという意志が私を支えてくれた
今の私が望むのは日々の幸せ
何にも負けず強くそして自由に
夜の暗闇から光が生まれるように
そう 私の人生は 私のもの!
探し求めていた幻の天国
それは近くにある どこか近くに
私はこう感じたい
「私は自分の人生を生きた!」と

(原語はスウェーデン語。翻訳は、DVDの付録より。)

この歌詞を頭にインプットして、歌を聴いてみてください。
歌手のヘレン・ショーホルムは、あのABBAのミュージカルで主役を演じるほどの、現代のスウェーデンで随一とも言われる実力者で、歌詞だけでなく、歌声からもパワフルなメッセージが伝わってきます。

この歌はアカデミー賞ノミネート作品(2005年度)のスウェーデン映画”As it is in heaven”(英題。邦題は「歓びを歌にのせて」)の挿入歌のGabriella Song(ガブリエラの歌)。上に貼り付けたのは、歌手がテレビで歌っているものですが、映画の中で歌われたそのシーンそのもの(ドイツ語字幕つき)は、こちらになります。

https://www.youtube.com/watch?v=u2Vr1ODCUag

もともと歌手で舞台女優だった人が、この映画で映画女優に初挑戦しました。映画にも興味のある方は、このページ内、下で、映画内での状況も説明しています。

スウェーデン語歌詞つき(歌手の映像なし)ならこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=FIRHaUYq_cg

映画をご存知の方には、映画全編のシーン(静止画)が背景になっているもの。
https://www.youtube.com/watch?v=237o48nMqJw

映画全編のシーン(動画)が背景になっているもの。
https://www.youtube.com/watch?v=y765gdd3rEc

などなど、いろいろありますので、お好みで選んで聞いてください。

以下は、ついでに映画の話です。

映画「歓びを歌にのせて」

(わたしが今、住んでいる)スウェーデンの作品だったのはたまたまで、50代後半の男性から、「アメリカ人の分析家に勧められて何の期待もなく観た後2時間、涙が止まらなかった映画」ということでずっと前から何度も勧められていたのをやっと観ました。

映画は、内気でいじめられっ子だったダニエル少年が、麦畑の中、一人でバイオリンの練習をしているところから始まります。

「人の心を開く音楽を創りたい」というのがダニエル少年の夢。父親はすでに他界しています。いじめらて怪我をして家に帰ってきた息子を介抱しながら、「あんな子たちのいる学校なんて転校しましょう」ときっぱり言う母は、少年の唯一最良の理解者でした。「大きくなったらママと結婚する」と言いながら、少年は、優しい母の笑顔を励みに(ポジティブな母親コンプレックスをエネルギーにして)バイオリンに打ち込み、14歳で世界ジュニア・ソリスト・コンテストで優勝。天才バイオリニストの名を手にしたその日、花束を持ってお祝いに駆けつけた母は、少年の目の前で車に轢かれて死んでしまいます。

その後、世界的に有名な指揮者になったダニエル。世界各地の一流の舞台で脚光を浴びながらも、彼の脳裏には、少年時代にいじめられていた時の記憶が蘇ります。

ダニエルのスケジュールは、本人も知らないうちに8年後まで埋まっている状態なのですが、これは、現実でも著名な音楽家にはよくあることだそうです。すでに決まっている8年後の自分のスケジュールを知ってうんざり顔のダニエルですが、現実でも「有名になって引っ張りだこ」の人たちは、多かれ少なかれ、きっとそんな気持ちなのでしょう。

成功し、地位と名声を得て、しかし自由は完全に奪われていた絶頂期に、ダニエルは過労による心臓発作で倒れます。一命こそ取り留めたものの、医者に「あなたの心臓はボロボロです。」と危険宣告を受け引退。

「スケジュール表が突然真っ白になって、生活が一変」というのは、現実でも、例えばバーンアウトや突然の事故や病気で、第一線を退いた人たちがよく経験することです。

ダニエルは、今となっては知る人もいない、かつていじめられた思い出のある故郷、スウェーデン北部の田舎に戻り、廃校を購入して住み始めます。

「なぜ少年時代を過ごした村に戻ってきたのか。
人間は不思議なことをする。」

というモノローグ。何者でもない自分に戻り、たった一人で、新しい生活のスタート。

客観的に見れば、落ちぶれた敗北者なのでしょうが、ダニエルが、雪の中を裸足で外に走り出るシーンでは、自由人としての喜びが全身から伝わってきます。

そこから始まるストーリーは、かつて天才音楽家として知られた、しかし性格は内向的なままで人との関わりを好まないダニエルが、田舎の村のちっぽけな教会の、ど素人の集まりの合唱団の指導者をすることになり、そこで起きるあれこれを経て、人との関わりの中での喜びや幸福感を知る・・・という内容になります。

ラストシーンで、ダニエルはまた心臓発作を起こして瀕死状態になりますが、彼のこころはかつてないほどの喜びで満たされているのでした。

このままダニエルが絶命したとしたら、わたしには一つの理想的な死に方のように思えました。

生死の淵で、しかし人生で最高の幸福感を味わいながら、ダニエルが、麦畑の中でいじめられていた幼い日の自分、ダニエル少年を抱きしめてあげるところで映画が終わります。

***

自分の幼少期の心の傷、トラウマを癒してあげることができるのは、家族でも恋人でも友人でもなく、カウンセラーでもない、大人になった今の自分だけだというのが、わたしの信条ですが、それは、たとえば、こういうことなのです!と例に挙げたくなるようなラストシーンでした。

ちなみに、「ガブリエラの歌」は、映画のストーリーで、ダニエルが、合唱団員の一人、ガブリエラのために作った歌です。

ガブリエラは、アル中の夫(不安な気持ちを暴力で表現することしかできないこのキャラクターも、とても上手く演じられていると評判になった。)の家庭内暴力に苦しみ耐える妻。冒頭の歌詞で、「チャンスに恵まれない人生だったけれど」という下りは、ガブリエラのその境遇を語っています。お酒が入っていない時の夫は、子煩悩ないいお父さんなのに、お酒が入ると凶暴になる。そんな夫の目を盗んで合唱団の練習にやってくるガブリエラは、いつも、夫がいつ怒鳴り込んでくるかとビクビクしていて、自分のために作られたこの歌を一人で歌う勇気がなかなか出ません。

その彼女に思い切って歌う勇気を与えたのは、別の男性合唱団員でした。同じ合唱団員で35年来の同級生に、デブ、のろまとからかわれ続けた挙句、もう我慢できないと、怒って泣きながら生々しい感情を表出させる彼の姿を目の当たりにした時、人の弱さの中の強さを感じ取り、眠っていたガブリエラの勇気が呼び起こされます。そして、堂々と「ガブリエラの歌」を歌い上げるのでした。

ガブリエラの歌で歌われている「自分に残されたこれからの日々を、自分のままに生きていき、生きている歓びを感じること」は、この映画のテーマそのものでもあります。・・・と書くと、陳腐な響きさえしてしまいますが、歌で聞くと説得力があります。歌のフレーズを繰り返しておきたいと思います。

生きている歓びを心から感じたい。わたしはそれに価すると誇れる人間なのだから
(Jag vill känna att jag lever, Veta att jag räcker till)

そして、「わたしは自分の人生を生きた」と感じたい!
(Jag vill känna att jag levt mitt liv!)

とても重要なフレーズだと思います。
「生きている歓びを心から感じること」なんてどうせできないと思っている人、自分を誇りに思えず、自分が「生きている歓びを感じるに値しない人間」だと思っている人もいるかもしれません。

誰のものでもない、自分の人生を自信を持って生きるということがどういうことなのか、色々考えさせられます。

自分をありのままに生き抜いた時、初めて生きる喜びを感じ、生きる力が沸き、何度でもやり直せるのではないかとこの映画をみて感じました。
(アーティスト大塚愛さん)

ということで、映画も一応お勧めです。

「音楽は既に存在している。あとはそれを見つけだすだけ。」など、音楽に関わりや関心のある人には、腑に落ちるであろう名言もいろいろありました。

日本語タイトルで引いてしまう方は、このアマゾンレビューが参考になりますヨ!

ベタなメインビジュアル(ポスター、フライヤー、初期DVD)、超べたな日本語タイトル。
これだけで普通は見ない。
以前、アメリカのバイオリン教室のドキュメンタリータッチみたいな映画があって、
そのようなものだろうと思った。
みんなでコーラスを練習して、最後に盛り上がって終わりだろうと。

しかし見始めると、最初の数分で、そうではないことが分かる。
まず字幕:戸田奈津子と出る。この時点で(おやっ?)と思う。
そして主人公を巡る悲劇の数々が、淡々としたショットの積み重ねで物語られ・・・(以下、省略)
(ボフェミャーさんのレビュー)

***

もっとついでに、DVDの付録でついていたキャスト・インタビューの中にもふむふむという内容があったので、ご紹介しておきます。

主役の音楽家を演じたミカエル・ニクヴィスト(Michael Nyqvist)は、インタビュアーに、子供の頃、なりたかった職業を聞かれて、考えた末、特定の職業ではなくて、”内側に入りたい”と思っていたと答えていました。「何か強い感覚」をいつも探していた、人との関わりの中でもそれを求めていたと。そして、一番最初にその強い感覚を感じられたのは、ビートルズの「プリーズ、プリーズ、ミー」を聞いた時で、その曲の中のどこかのフレーズを聞いた瞬間、自分の中の何かが変わったという感覚を覚えたそうです。大人になって役者になり、演じている時に、そういう感覚になれるんだそうです。「内側に入りたい」感覚というのは、「自分の」内側に入りたい感覚にも関連しそうです。

また、この映画の作成にあたって、監督と何度か衝突したけど、「それは深いつながりがあればこそ。生死を共に経験したように理解しあえ、友達ではなくきょうだいになれた。」とも言っていました。「きょうだい」は、「同志」的なニュアンスなのだろうと思います。この「深いつながりを前提とする衝突」は、わたしが仕事をしながら、目指しているものでもあります。(そこに到達するのは、とても難しいですが。)

「あなたにとって歌とは?」と聞かれた上述の「ガブリエラの歌」のヘレン(スウェーデンの実力派歌手)は、「いろんな意味があるけれど、仕事というよりセラピーに近い」と答えていました。
歌いながらいろんなことを感じ、歌うたびに新たな気持ちが生まれる。自分にとってそれは生きることそのものだと。

二人とも天職を見つけ、それを仕事にできている人たちですね。

この、”日本の皆さん”に向けたTBS企画のインタビューでは、インタビュアーも、この映画を観た後、映画館を出てから駅まで、人に見られるのも構わず号泣したそうで、当時、「今までで観た中で最高の映画」と称していました。(わたしは、涙も出なかったし、映画そのものには特別感動したわけではありませんが、歌に感動して、衝動的にこれを書き始めたのがすっかり長くなりました。)

監督は、日本には特に関心もなさそうでしたが、クロサワ映画には、「もちろん」影響を受けたと言っていました。

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