スイスで仕事をしているユング派の分析家が、実際に経験した話です。その分析家のところに、はるばるニューヨークから、毎週、分析を受けに来ている人がいました。飛行機で飛んで来て、ホテルに泊まって分析を受ける、ということを数年間、続けていました。
当然のことながら、金銭的にとても余裕がある人です。
あるとき、その分析家が、一律にセッション料金の値上げをしました。はっきりした料金を覚えていないのですが、それまでが10,000円だったとすると、そこから、1,000円未満、つまり1割未満の値上げでした。通って来ているクライアント全員にそうしたのですが、それに対して、いちばん感情的に反応して、怒り狂ったのが、そのニューヨークのクライアントだったそうです。
彼は、そんな値上げには応じられないとカンカンになって言ったそうです。
毎日高級レストランで食事をして、その度に、数千円のチップを平気で払う人が、千円足らずのセッション料金の値上げに抵抗するのは、この「千円足らず」が、物理的なお金ではないからでしょう。
「わざわざ、こんなに遠くから来ている自分は、もっと特別扱いされるべきだ」と思ったのか、「自分にお金があるのにつけこんで、もっとふんだくろうとしているなんて許せない」と思ったのか、この人の真意は、わかりません。
さて、この話を聞いたときには、お金持ちのくせに、なんかセコい!と思って笑っていたわたしですが、わたしの分析家が1,000円の値上げをしたとき、しっかり動揺して怒りました。
わたしの場合は、「そうでなくても、いつも高いと思っているのに、もっと高くなるなんて耐えがたい」という気持ちでした。
わたしはお金持ちではないのだから、動揺してもいいかというと、たとえお金の余裕がなくても、「その1,000円」が「どうしても払えない」ということは、絶対にないのですから、その耐えがたさは、完全に心理的なもので、反応としては、上のクライエントと同じなのです。
お金にまつわる心理は、いろいろと興味深く・・・率直に言うと、「マネーコンプレックス」に向き合うことは、わたしの課題だという自覚があるので、あえて、お金の話題を続けたいと思います。