「ユング派分析家国際資格って、臨床心理士のように数年毎に更新の必要があるタイプなのでしょうか?」
というご質問をいただいたので、回答ついでに、ユング派分析家の資格と博士号の関係についての情報を書いておく。
ユング派分析家資格は更新不要
先に冒頭の質問に答えておくと、ユング派分析家の資格は、高校や大学の修了資格と同じようなもので、取得後、更新する必要はない。
しかし、国際分析心理学界(IAAP: International Association for Analytical Psychology)に所属するメンバーとして、毎年、約5〜6万円(為替相場によって変動)の会費を払う。払わなくても資格を剥奪されるわけではなく、情報をもらえなかったり、名簿に名前が掲載されなくなったりするだけのことだが、団体の存続を願う所属意識の表明として、ユング派分析家として仕事をしている人は、ふつうはこの年貢を納めていると思う。
したがって、実際の感覚としては、5年に1度、2万円払って資格を更新する臨床心理士よりも、ユング派分析家でいることには経費がかかる。
ユング派分析家の資格はPhD(博士号)と同等のものだというお墨付き
ユング派分析家の資格は、高校や大学の修了証書と同じようなものだと上に述べたが、ユング派分析家になるトレーニングを受けるためには大学院の修士号が必要で、その上でさらに5年間の過程をこなさなければいけない。
わたしがスイスの研究所にいたとき、長い期間と労力を使って、たくさんの試験を受けたり論文を書いたりしてやっと取得できるこの資格は、大学院の博士号に匹敵するはずだとアメリカ人留学生たちが主張した。
日本人中年留学生たちは、そんなこと考えもつかないと思う。日本の大学教授の肩書きを持っている人も多かったが、与えられるものをありがたく受け取るという発想しかない。
アメリカ人たちはこれにこだわり、同じ議論は、それまでにも何度も出ていたようだが、ユング研究所は、通常の大学等の教育機関とは性質が異なるし、おそらく認可の基準も違うだろうから、ユング研究所からPhDの称号を出すことできない。
あきらめなかったアメリカ人は、自国で権威をもつAPIE(Academic and Professional International Evaluations, 学術と専門に関する国際評価機関 )に資料を提出した上で客観的査定を求め、その結果「ユング派分析家の資格取得は、アメリカの学歴システムに準拠すれば、哲学系心理学の博士号に匹敵する。」とのお墨付きを得たのだった。
APIEは、海外での教育を査定する国家権威(National Council on the Evaluation of Foreign Education Credentials)に準拠した査定をする機関として知られているため、アメリカ人たちは、これで大腕を振るって、この資格の立派さを主張できることになった。
かくして、ユング派分析家の資格をしたアメリカ人の同僚の中には、肩書きとしてPhDの称号だけ書いている人もいるし、”Diploma / PhD-Equivalent in Analytical Psychology(分析心理学で博士号と同等の学位を取得)”と詳しく書いている人もいる。もちろん、オーソドックスな大学システムの基準にのっとり、どちらも書かずに修士だけを書く人もいれば、学歴は省略して「ユング派分析家」とだけ入れている人もいる。
資格や学歴よりも
この例を通して、アメリカ人が、文化的に学歴や肩書きをことさら重視する傾向があるように感じられて興味深かったし、こうやって、自分に箔を付けるために尽力する熱意もすごいなぁと思った。
わたし自身は、若い頃、日本の大学院で博士号をもらいたかったのに、最後の1本の論文がどうしても書けなかったとか、最近では、公認心理師の資格も欲しかったのに試験に落ちたなどの苦い経験を経て、今では、そういうものへの執着は薄らいでいる。
あとは、「ユング派分析家」という肩書きに頼らない自分になることが残りの職業人生での目標だ。
立派な肩書きや名声があっても尊敬できない人や、逆に、肩書きも資格もなくても実力のある人、その両方を、本当にたくさん見てきた。30年前に日本でカウンセラーとして働いていたときは、それを見分ける力もなかったのだから、今、これを自信を持って言えることは、ユング心理学を学んできたこの18年間の自分の成長だと思いたい。
2020年6月2日、記。