ユング心理学と錬金術:変容過程の黒 > 白 > 赤=金──賢者の石が赤い理由

ユングは、錬金術の物質的変容プロセスを、こころの変容プロセスに重ねて解釈している。変容のプロセス3段階(ニグレド / 黒化、アルベド / 白化、ルベド / 赤化)についてまとめた。(1,500文字)

錬金術変容のプロセス3段階(ニグレド / 黒化、アルベド / 白化、ルベド / 赤化)
Pretiosissimum Donum Dei 1475
Contents

ユング「心理学と錬金術」(1944)

ユングは、『心理学と錬金術』において、錬金術を心的プロセスの投影として解釈し、物質変容の寓話に個人の心理的変容(個性化の過程)を読み取った。1944年に初版が刊行されたこの著作(ユング全集 / Collected Works 第12巻に収められる一連の論文集)は、ユング後期思想の基盤をなす重要な研究であり、錬金術の変容プロセス(ニグレド、アルベド、ルベド)を個性化(individuation)の投影として分析している。

錬金術、変容の3段階

ニグレド(黒化 / nigredo):

混沌とした原初物質の腐敗・死を象徴。
ユング心理学では無意識の影との対峙(個性化の始まり)。自我の崩壊と無意識への没入段階。

C.G. Jung CW #115:ニグレード(黒化)のイメージ、死んだ王
ユング全集より / C.G. Jung CW12 #115

死んだ王の体が壺の中で腐敗し、黒いカラス(ニグレドの象徴)が飛び立つ。このプリマ・マテリアの死滅は、無意識の闇との対峙、自我の崩壊を意味する。個性化の第一段階であり、錬金術師はこの混沌の中で原初物質を見出す。

アルベド(白化 / albedo)

錬金術の変容プロセス第二段階で、ニグレード(黒化)の混沌・腐敗の後、浄化と再生が始まる転換期。

ユング心理学では浄化・再生の段階で、無意識の影と対峙した自我が洗い清められ、意識と無意識の分離・調和が進む段階。アニマ/アニムスとの出会いや、直感・洞察力が目覚める。

Rosary of the Philosophers (Frankfurt, 1550)

ラテン語:Rosarium Philosophorum
英訳: Rosary of the Philosophers
標準的な邦訳: 哲学者の薔薇園

ルベド(赤化 / rubedo)

卑金属が黄金や賢者の石に完全に転化する最終完成段階。

ユング心理学では、個性化プロセスの頂点として、対立物の合一、無意識と意識の完全統合が起こり、影の受容を通じた全体性(Self)の実現を象徴。

錬金術変容の最終段階のイメージ、ユング全集より / C.G. Jung CW12 #167
ユング全集より / C.G. Jung CW12 #167
とーなん

最終段階は金ではなくて赤ですが、赤が金に結びつきます。

賢者の石と金
  • 錬金術では、実験中の物質が赤く変わるのが成功のサイン。=これで賢者の石が完成。

    ※ 前段階の白=白い石では銀がつくれるが、銀にはまだ不純物が混在。
  • 賢者の石(Lapis Philosophorum)は、ルベド段階で生成される赤い粉末・液体で、黄金を生み出す力を持つ物質。

    ユング心理学では賢者の石=自己(Self)の象徴。

    ※ ラテン語:Lapis Philosophorum、英語:Philosopher’s Stone、日本語では「哲人石」と訳されることもある。
  • 黄金は、賢者の石を使って鉛・銅などを変成した最終産物。
Perplexity.ai

賢者の石は、普通の金属を金に変えたり不老不死を得られる究極のアイテムです!

ハリーポッターの賢者の石
ハリーポッターの賢者の石

クライエントの夢

実際にはまだ黒髪のクライエントが、「自分の髪が真っ白になっていて驚く」という夢を見たその1か月後、今度は「髪の色が赤と金になっていて、嫌だなと思いながらも渋々受け入れた」という夢を見た。

とーなん

元型や集合無意識に触れた気がして感動しました。クライエントさんの意識は、錬金術の色の変容段階について知らなかったのです。

錬金術変容のプロセス3段階(ニグレド / 黒化、アルベド / 白化、ルベド / 赤化)
Allison Adams 2023

ユングはのちに、『心理学と錬金術』で導入した錬金術の変容プロセス(ニグレド、アルベド、ルベド)を発展させて『結合の神秘』(Mysterium Coniunctionis)を著した。

とーなん

次のコラムに続きます。

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