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「いいね!」依存症:承認欲求より内的欲求を

最終更新日:2021/2/8  全2ページ、4,050文字。

SNSの「いいね!」には、承認欲求を満たしてくれる効果がある。程度の差はあれ誰だって自分の発信内容を認められれば悪い気はしないし、批判されればいい気はしない。精神科医の唐沢紫苑氏は、「いいね!」を求める承認欲求は一概に悪いものとはいえないが、それに踊らされることとは別の話だと言っている。わたし自身の、数少ない「いいね!」体験についても書いた。

「いいね!」依存症

脳科学的に「いいね!」でドーパミンが出ることも知られているし、米大学の研究チームは、ソーシャルメディアを使う若者の脳を観察して、「いいね!」が脳内で、タバコやギャンブル、チョコレートと同じように「快楽中枢(依存症と関係する部位)」を刺激するという結果を得ている。(参考1)

お金もかからずドーパミンが出るなんてお得な話ともいえるが、中毒になる、つまりやめたくてもやめられなくなってしまっては困る。

たとえば中野信子の「シャーデンフロイデ」に書かれている例。

この30代の男性は仕事が忙しいのにもかかわらず、仕事中も自分のフェイスブックへの反応が気になってしかたがない。隙を見てはチェックし、「いいね!」が少なければがっかりし、なにか批判的なコメントでも書き込まれていようものなら、落ち込んで仕事も手につかなくなるのだ。いっそのことフェイスブックの更新をやめればいいのにそれもできない。そんな彼は、とにかく承認が欲しくてたまらない、重症の中毒患者ともいえる「承認欲求ジャンキー」だと中野信子は言う。

この例のように、「いいね!」を気にし始めると、「いいね!」で承認欲求が与えられる”ご褒美”だけではすまなくなり、反対に「いいね!」がもらえないことが「承認されていないことの証」という”罰”になる。「いいね!」は、もともと、ついていれば嬉しいがなくてもいいおまけのようなものだったはずなのに、その”おまけ”の意味が大きくなりすぎている。

「いいね」数が少ないとき、その背景に「いいね」をしなかった人の存在が浮かび上がり、自分の投稿を良いと思わなかった人たちから低評価を受けている感覚になって不安な気持ちになるという調査報告もあった。(参考3)

「いいね!」の価値

しかし、そもそも「いいね!」という承認マークには大きな意味はなく、むしろ義務的だったり機械的なリアクションによることも多いのを誰でも知っている。

ここで考えるべきことがあります。誰かの投稿に「いいね!」をするとき、人はその行為にどれだけの意味を込めているのだろうか?と。「『いいね!』をもらうのは気分のいいことです。でも『いいね!』をクリックする方は、深く考えずにそうしていることは分かっています」と語ってくれた人もいましたが、これは真意を突いた言葉です。

2017/09/05 COSMOPOLITANの記事より抜粋

頭ではわかっているけど、気になる、気になるのを止められない。

SNSを使ったある実験をした人がいます。彼には数年間付き合っている彼女がいたのですが、まったく別人のモデルを雇って偽のプロポーズ写真を撮影し、SNSに投稿したそうです。するとネット上の友人・知人たちから何百もの「いいね!」をもらったものの、写真に写っているのが偽の婚約者であることに気付いた人はほとんどいなかったのだそう。つまり彼の実験は、「いいね!」は思慮深い意味を込めた行為ではないことを証明しています。

2017/09/05 COSMOPOLITANの記事より抜粋

「いいね!」をする側は、以下のような意見に同意するだろう。

「タップ大好き軍団」の勢力は圧倒的といえる。ここ数年で、いつの間にかありとあらゆることにリアクションをしなければならなくなってしまった。FacebookのコメントやTwitterのリプライなどわかりやすい例もあれば、Facebookの絵文字のようなもっと何気ない例もある。

そして、この機能を利用しろという無言の圧力が常にある。Twitter、Instagram、Snapchatなどのあらゆる投稿が、スマホの画面から『シャイニング』の不気味な双子のようにこちらを見つめて、「一緒に遊びましょ」と語りかけてくるのだ。

この「不気味な双子」を無視して反応しないことは、失礼で傲慢な態度だと感じてしまう。「いいね」をつけたり拡散したりすることが、いまや社会契約の一部となってしまい、これを破ることに精神的な負担が伴うようになった。

2018/9/30 WIREDの記事より抜粋

「いいね!」の数が、目の前のデート相手よりも気になる

上掲のコスモポリタンの記事には、就活に成功して念願だったあこがれの仕事を手に入れた人が、その喜びをSNSで発信したときの話が書いてあった。その夜、デートに出かけたが、目の前にいる相手よりスマホで「いいね!」の数が増えていくのを確認する方が気になったという。実際に会っている人からの「おめでとう」という言葉より、オンライン上での反応を気にしている自分に気づき、毎日、ヴァーチャルな世界からの反応を必死で追い求めている自分に違和感を持つに至った。

どんなにたくさんの「いいね!」をもらって高揚感を感じても、しょせんヴァーチャル世界は「現実」ではない。

公の場で発信しながら「いいね!」を気にしない人はどんな風に考えるのだろうか。

 

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