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草間彌生、グロテスクな性小説と94歳の全力疾走

2023.9.12 加筆 (3,700文字)

草間彌生(くさまやよい)は米国TIME誌で「世界で最も影響力のある100人」に、唯一の日本人として選出された(2016)芸術家で、2023年現在94歳。今年4月には香港のオークションで、草間彌生の作品5点が合計約30億円を売り上げ、ブロンズ製のカボチャは約10億5000万円で落札された。2015年の同オークションで草間彌生の作品が日本人絵画として最高値の8億で売れたときにも話題になったが、草間彌生のカルト的人気はますます勢いを増しているという。

男子高校生に教えてもらって草間 彌生の「クリストファー男娼窟」(2012)を読んだ。新人文学賞を受賞(野生時代1983)したこの表題作品を含む3篇にはすべて究極にグロテスクなセックスが描写されていて、なんともいえない読後感が残った。小説と合わせて草間彌生の人生についても聞きかじり、大きな宿命を背負って生きている人の中には、ここまで激しくあらねばならない人がいるのだと知って胸が苦しくなる思いがした。

草間彌生にとって小説とは、芸術とは

今まで、瞬間ごとに魂がきらびやかな何ものかに餓えていなくては、私は一行の文章も、一つの彫刻も作れないという宿命の只中に身をおいてきた。
(中略)
造形美術ではさぐり得なかった私の存在の別の一面に光をあてて、自己の分野を開拓したいという、新しい魂の位置に今、私は立っている。
 朝明けの曙光の中で雲が、さまざまに変化して地上の我々を驚かせるその空の仕掛けよりも、ずっとしたたかな、人間の生きざま、死にゆく気配、愛の存在、命の光芒と傷跡、そして宇宙の不可解なたたずまいと神秘が満ち溢れている空間。時間。距離。──それらの背後に高く聳え立つものは何か。
 この未知の何ものかに対する私の強いあこがれと、精神の止揚がつきせぬ限り、私は芸術への創造を死のあとまでもつむぎつづけるであろう。

草間彌生 (1984) 文庫本あとがきより

55歳でこれを書いた草間彌生は、現在94歳にして”精神の止揚”が少しも尽きていないのだから恐れ入る。

草間彌生のアート作品は好きだけど、小説を読もうとは思いません。

セックスについては、どちらかというと怖いぐらいだったみたいだし、グロテスクに表現して吐き出すことによって、精神が保たれていたのではないかと推察します。
草間彌生の前衛芸術の活動や映画制作にしても、心の中で爆発したものを表現した感じがします。

若い頃は死にたいと思っていた時期もあったけど、今は少しでも長く生きて、作品を残したいそうですよ。

300年ぐらい生きないとやりたいことが追いつかないと書いてあったのも読みました。

草間彌生は若い時にNYで自分のヌードに絵を描いたりして、あの時代に注目されたし、ドキュメンタリーDVDも持っていましたが、彼女が小説を書いていたことは知らなかったので早速読んでみました。

アマゾンレビューより

すごすぎです。私は草間彌生をなめてました。なんとなく読める本ではない。体や心が弱ってる時には読めないすね。何度もマジかよ、と思い、もうやめてーと叫びたくなる本、なかなか無い本。

彼女の著書の中の最高傑作でしょう。一読しただけでは嫌悪感もあるかもしれないが、それ以上のパワーに圧倒されるはずだ。傑作としか言えない。

世界的にも著名な美術作家なのは知っていたけれど、小説も単なるアーティストの“小説家ごっこ”じゃなかった。言語を扱う作家としても異彩を放っていた。

なんというか、表現があからさまというか、汚いというか。耐えられず、何度も読むのをやめようと思ったけど、結末が知りたくて読んでしまった。読んで、読まなきゃ良かったと思った。全く救いがない。死ぬことでしか、終わらすことが出来ず、死が安らぎとも思えるような「生」。虚しい。

「離人カーテンの囚人」だった草間彌生

草間彌生は都内の精神病院の一室に居住し、そこからアトリエに通って制作をするという生活を長く続けている。その様子はかつてNHKスペシャル「水玉の女王 草間彌生の全力疾走」でも放映されている。(2012年)

10歳の頃から統合失調症を患い、トレードマークの水玉模様も病に関わりをもつとされているが、この本に収録されている「離人カーテンの囚人」が彼女の自伝的小説だと知ると、幼少期の壮絶な家庭環境に衝撃を受ける。同時に、幻覚や幻聴や離人症の症状が、彼女を守る術でもあったことがよくわかる。

日本は草間彌生を評価しなかった

草間は日本を基盤として世界に進出したアーティストと誤解されることがある。これは大きな間違いで、アメリカに飛び立つ前の草間はまったく無名であり、またニューヨークで世界的に注目を浴びている頃さえも、日本の美術関係者は草間に関心を寄せることはなかった。

アートペディアより

関心を寄せられないどころか、日本では顰蹙を買い、故郷では母校の名簿から除名されていたことさえあるという。

松本市美術館には草間の巨大な立体作品《幻の華》があるだけでなく、外観も草間のトレードマークである水玉に覆われており、ほとんど草間彌生美術館のような姿だが、そもそも自分たちで排除しておきながら世界的な大作家となった今になって草間の故郷であることを大々的にアピールするのはいかがなものだろうか。

Art and Philosophyより

当時、草間彌生を無視した日本の専門家たちは、今ごろどんな気持ちなのかと思ってしまいますが、外的評価基準ってしょせんその程度のものなのかもしれませんね。

街にある草間彌生のアート

2023年1月、パリのルイ・ヴィトンの本社ビルは、草間彌生仕様に。

2023年パリで撮影

草間彌生って誰なのかと思ったら、そうか、パリのサントノーレのルイビトンのショーウインドウの中にいたロボットが草間彌生だったか。

2023年3月にはそのすぐ近くに、ビルの5階の高さ相当の草間彌生の巨大モニュメントも登場したそうだ。

ルイヴィトン x 草間彌生、コラボのLINEスタンプもありました!

かわいくない、要らないという声もありましたが、好みの方は無料でダウンロードできるそうなので探してみてください。

瀬戸内海の直島には、草間彌生の色とりどりのカボチャが点在。

2019年8月 ベネッセ直島で撮影

草間彌生といえば直島のアート。 友達が、あそこはコスパ悪くてボラれた感が強いって言ってたから行ってないけど。
草間彌生の色使いは可愛いと思う。
ただし、少し精神的に問題ガール【がある】かな?

草間彌生の故郷を走るバス。

松本電鉄バス(2010)

【おまけ】ニューヨーク近代美術館(MoMA)のペニスチェアー。(Yayoi Kusama Accumulation No.1, 1962)

草間彌生のアートが好きなFさんは、こういう作品の良さも理解できるのですか?

難しい質問ですね。草間彌生の全ての作品が好きというわけでもないし、ペニスの作品を理解して大好きとは言えないかな。
そもそもアートは理解するとかの前に、感覚的に好きかどうかだと思ってます。
観てどう感じるかも人それぞれだと思いますが、私は草間彌生の男根をモチーフにした作品を観ると、彼女の煮えたぎるような心の内が見えたような気がします。どこまでも突き抜けている人だと思います。

草間彌生の財産を受け継ぐのは・・・

「ピカソやウォーホルを超えるトップの芸術家になりたい」と言っていた草間彌生は、名声には関心がありそうだが、富の方はたとえ関心がなくてもついてくる。下世話な好奇心で、草間彌生が他界したら遺産はどうなるのだろうと思っていたら、草間彌生の秘書の男性が、養子として法律的な息子になっていた。

草間彌生の近影(2023年1月)

2023年1月の草間彌生氏の写真をこのページで見つけた。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/26669

私は毎日朝から晩まで芸術の制作に命がけで闘っています。私の心の限り、命の限り、真剣に作り続けたこれらの我が最愛の作品群を、私の命の尽きた後も人々が永遠に私の芸術を見ていただき、私の心を受け継いでいって欲しい。

草間彌生 2017年2月

この発言のあった2017年の「草間彌生 わが永遠の魂」展開催時には、すでに車椅子に乗っていらっしゃったようです。

草間彌生の日本での知名度がいつからどれぐらいのものだったのかは知らないが、わたしが名前を知ったのは2016年、ストックホルムでYayoi Kusamaの展示会に行ったスウェーデン人が、「素晴らしくて感動した! 日本人アーティストだったよ!」と興奮気味に展示会の小冊子を持ってきてくれたときだった。どんな芸術家なのかは知らないまま、そのあと、2019年に直島に行ってカボチャを見るまで忘れていたが、今回、教えてもらって小説を読んだのがきっかけで、いろいろ調べて活力をもらった。

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