ミッドライフ・クライシスの見本が、たった10分間にうまく表現されている「笑ゥせぇるすまん」の動画を見つけてかぶりつくように観た。
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完璧で隙のない男の苦悩
喪黒福造(笑ゥせぇるすまん、もぐろ ふくぞう)のお客様は、誰からも頼られるたのもしい男、その名もタノモ(頼母)さん。職場では有能な上に人徳もある上司、家庭ではよい夫であり、お父さんであり、息子でもある。そこらへんのオヤジと違ってクールでダンディだから、飲み屋に行けば、ホステスにもモテモテ。
そんなどこから見ても非の打ち所がない、完璧で隙のない中年男性、タノモさんの胸のうちはこうだった。
わたしは子供の頃から期待されて育ってきました。
常に周囲の期待に応えるよう、懸命にがんばってきたのです。
現在に至るまでずっと、家族、友人、会社の連中に頼りにされてきたのです。わたしはすべてのことで、頼もしい男だと思われているんだ。
この顔のおかげで、他人には頼もしく見えるんでしょう。だが、いつも頼りにばかりされることは大変な負担です。
わたしを頼り、甘えてくる連中はたくさんいるけど、わたしが頼り、甘えられる人物はどこにもいないのです。
タノモさんは、飲み屋に行っても羽目を外せず、格好をつけていないといけない。
わたしは、どんなに飲んでも乱れない男だと思われているんです。
わたしも見栄をはって、ストレートをガブガブと・・・。
そしてタノモさんは、ホステスに見送られてかっこよく酒場を出たあと、誰もいない路地裏で酔いつぶれてへべれけになっているところを喪黒福造に見つけられるのだった。
今のままでは精神のバランスを崩す
タノモさんの胸のうちを聞いた喪黒福造は言う。
わかります。人を頼るより、頼りにされる方が何倍も辛いものです。
今のままでは精神のバランスが崩れてしまうでしょう。
まさに精神のバランスを崩して、ミッドライフ・クライシスがやってくる。
それは、これまでの生き方を見直せという無意識からのメッセージだといえる。
よい息子、よい会社員、よい夫、よい父親として、周囲の期待に応えて頑張ってきた人生の前半は、決して間違っていないし、むしろ成功だったといっていい。しかし、人生の後半では、周りの人間や社会の期待に応えるよりも「自分との約束」を果たすことが課題になる。
その課題に取り組まないとき、表向きにはどんなにうまくいっていようが、無意識は容赦なくレッドカードをつきつけてくる。
そのレッドカードはしかし、叱咤激励の意味をもち、ミッドライフ・クライシスは、発展的変化へのチャンスといえる。
ミッドライフ・クライシスと周りの人たち
このエピソードには、「ドーン」は出てこない。
タノモさんは、喪黒福造に「安心して甘えられる人」を紹介されてハマってしまい、妻と息子の前で、想像を絶する、極めつけの醜態をさらすことになる。
今までの「理想の夫」像が崩れて呆然としている妻を残して、喪黒福造は去っていく。
奥さんがあの光景を見て、タノモさんの本当の心を理解できるか、嫌悪の情をもよおすか、タノモ家の幸せはそれ次第ですな。
タノモさんの妻は、世間知らずの可愛い奥さまで、同居している姑とのよくある確執を除けば、エリートの夫に、絵に描いたような幸せな生活を提供されている。
こういう妻が、夫の苦悩や、本当の心を知りたくない、と思ってもおかしくない。
表面上の理想の夫でいてくれればそれでいいし、闇の部分なんて見たくないのがふつうかもしれない。
ミッドライフで今までの生き方を見直そうとするとき、周囲に足を引っ張られることも多い。身近な、自分にとって大切な人が、自分にがっかりした目を向けることに耐えられず、いい夫や、いい子のままでいたくなってしまう。自分さえ我慢して、今までどおりにふるまっていれば、みんなハッピーなんだと思ってしまう。
以下の10分動画は、結末がグロテスクでも、決して「タノモさん転落の破滅ストーリー」としてではなく、「成長的発展(ユングの個性化)へのターニングポイント」として、この先のタノモさんの明るい未来を想像しながら観てもらいたい。