ユングの著作の中で、初期には「たましい(soul)」と「こころ(psyche)」は同義とされていたこともあるが、こころのプロセス全体や分析について語るときには、「たましい」より「こころ」が多く用いられている。
とくに「たましい」という用語が使われるのは、次の場合。
1. こころのパターンや秩序と対比して、多様性や多元性や不可解さを強調したいとき。
例)「複数のたましい」
2. 人間の非物質的側面の中心を表すのに、「精神」のかわりに「たましい」を使った。
たましいの喪失 loss of soul
太古より人類を脅かしつづけた、神経症的、病理的、非自然的状態。自身の”個としての生きたこころ”と関係が断たれることで、心的水準の低下を特徴とするが、それと同義ではない。
この状態は、人生の半ばにしばしば現出し、さらなる個性化への先触れとなる。
・エネルギーの欠如
・意味の感覚と目的意識の喪失
・個人的責任感の減少
・情動の圧倒
↓
意識を崩壊させる効果をもつ抑うつや退行が生じる。
↓
この状態を放置すると、この人格が、集合的なこころの中に溶解してしまう、とユングは述べた。
たましいの導き手 psychopump
イニシエーションや移行期に、たましいを導く役を務める形姿。
例)
・ギリシア神話のヘルメス:死者のたましいに付き添い、死と生だけでなく、昼と夜、天と地などの二つの極を渡ることを可能にした。
・僧侶、シャーマン、呪術師、医者:聖なる世界と俗なる世界とをつなぐ霊的な導きや仲介の役割をはたす。
※ユングは、アニマ・アニムスの機能を描写するときにもこの表現を用いた。
(参考:「ユング心理学辞典」)