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精神分析とお金3


わたしは、この1年半余り、クライエントとして、スイス在住の分析家のスカイプ分析を受けてもいます。

ユング派の分析家になるためには、最低300時間の分析が必要ですが、分析家になったあとは、とくに分析を受ける義務はありません。

しかも、あいかわらずわたしには、意識できる“悩み”がない(つまり、“問題”を意識できない)のです。

そして、あいもかわらず、分析は高いなーと、分析セッションの次の予約を躊躇してしまうのです。

「義務」か、意識できる「悩み」か「問題」があれば、もっと簡単に予約できるのに、無意識に対する信頼だけでは、動機づけとして弱いようです。

「趣味的精神分析」なんて、こんなに忙しいのに、そんなことやっているヒマがない!とも思ってしまいます。

分析のおもしろさと意味を、これほど理解していて、分析を受けたあとは、たいてい、とっても満足しているのに、なぜ、この期に及んでも、「自分には不要」、「高い」と思ってしまうのでしょうか。

自分のこととして、その理由を考えていて、ひとつ気付いたことがあります。

それは、分析を受ける前に、受けたあとのイメージがわかないからではないでしょうか。

「分析はおもしろそうだけど、お金の余裕がないから、できない。」

という人は、おもしろそうとはいっても、そんな高額のお金を払うほどのおもしろさはイメージできない、というのがあると思います。

分析のセッション料金は、ちょうど、エステや風俗サービスの料金と同じぐらいだと思います。

同じ料金でも、風俗やエステの方は、はっきりイメージができますから、「これとこれをしてもらって、これだけの出費」というのが、明瞭です。

風俗やエステほど明瞭ではなくても、「よく当たる占い師」なら、高額であればあるほど、なにかありがたいことを言ってもらえそうな気がします。

思えば、お金がないとは言いつつ、わたしたちは、気づけば、いろんな無駄遣いをしています。

高かったのに、ほとんど着てもいないまま、流行遅れになってしまった洋服や、靴やバッグ。

お守り代わりに思いきって買ったけど、あとで石ころにしか見えない宝石。

使いこなせないような高機種を選んで、半年で半値になっているのにがっかりしたパソコン、オーディオ機器、カメラ。

それらの、結局、使わないままの周辺機器や、奮発した割には、あとですぐ飽きてしまった車グッズ。

団体で連れまわされて疲れただけで、どこに行ったかもはっきり覚えていないような海外旅行や、終了証はもらったけど、何も身についていないような習い事や学校、三日坊主になったスポーツジムの年会費。

食べすぎて胃をこわしたり、気持ち悪くなったりしたという落ちのつく、高級レストラン。一行も読んでいない文学全集・・・

・・・多くはわたし自身、身に覚えのあることなので、いくらでも思いつくのですが、数えあげればきりがありません。

でも、たとえ、後から考えると「無駄」だったとしても、お金を払うときには、それを「持っている」、あるいは「している」、「したあとの」肯定的な自分がイメージできて、ハッピーになれれば、それでいいのです。

このように、一般の消費生活は、消費すること、その行為自体が満足を与えてくれるので、時には、「高い」ことで、より大きな喜びを感じられることさえあるのにひきかえ、趣味的分析セッションは、その逆です。

後で振り返ると、精神分析に大枚をはたいたことに対して、少なくともわたしは、まったく「無駄」を感じたことがないのです。それどころか、わたしのこれまでの人生の中で、これほど有益な出費は他になかったと言っても過言ではありません。

その延長で分析家の資格を取れて、それを職業にできるからそう思うのではなく、自分が大きく変化したことが有益だったと思えるのです。“問題”を意識できなかった分、変わりたいという自覚もなかったのですが、変わった自分が昔の自分を思い出したとき、不憫にこそ思えますが、そこに戻りたいとはこれっぽっちも思いません。

でも、こんな「アフター分析」は、「ビフォア分析」はもちろん、変化のプロセスの渦中でも、まるでイメージしていなかったのです。
イメージさえできれば、どんなに高くても我慢できるけど、イメージのできないものに、高いお金を払うのは、難しくても仕方がありません。

冒頭のイラストで、お金と愛を天秤にかけたとき、お金の方が重いという人はあまりいないと思いますが、お金と「こころ」を天秤にかけたとき、その「こころ」が得体のしれないものであればあるほど、わたし自身を含めた多くの人にとって、お金の重さがそれに勝るように感じられるのだと思います。

今月の分析代が○万円ということを気にしながら、「現実の忙しさ」を自分への言い訳に、「次回はもう少し間隔を空けて予約しよう」と、それがいかにも合理的であるかのように思っているわたしは、「こころ」を無視しているのに違いない、と自分に言い聞かせています。

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